米騒動は近年までの日本の歴史の中で何度か起きていますが、ここでは大正時代の1,918年に起きた米騒動を紹介していきます。米価格の急騰に伴う暴動事件のことです。
第一次世界大戦の直後、米価は暴落していましたが、周りの物価が徐々に上昇していく中で、約3年半の間は米の価格に変化はありませんでした。ところが、1,918年の中頃になると、急激な上昇をはじめます。大阪の米市場の記録を見ると、1月には1石（10升が1斗。10斗が1石）15円だったものが半年後の6月には20円、その翌月には30円を超える異常な上昇ぶりでした。当時の一般社会人の月収が18～25円だったので、どれだけ高くなったのかが分かるでしょう。
米価暴騰の原因はどこにあったのでしょうか。平成時代に入ってからも米不足がありましたが、冷害による米不足でした。大正の米騒動の原因はどうやら違うようです。1,918年7月終わりから8月はじめにかけては、地方から米が出回らないようになり、白米小売相場は1升が50銭にまで暴騰しています。これは、資本主義の発展が背景にあると指摘されています。
第一次世界大戦が終わって戦争好景気が残っている中、都市部では人口が増加し、農家を辞め、工業労働者が増えました。それまで養蚕に収入を頼っていた農家が、ヒエや麦を食べる生活から、米を食べるようになっていきました。こうした農業から離れる人の増加と、米の消費量が増えたこと、戦争の影響で米の輸入量が減ったことなどが重なり、米が暴騰することにつながっていったのです。
最初の米騒動は、富山県の魚津港で起こりました。1,918年7月22日の夜、北海道に米を運ぶための伊吹丸が寄航しました。魚津町の主婦らが、この伊吹丸に米の積み込みをしていた十二銀行の倉庫の前に集まって、船への積み込みを中止して、住民に販売するように嘆願をしました。この騒ぎは巡回中の警官が主婦らを解散させることで収まりましたが、住民らが集会を始めたりして、米の販売を望む人は日を追って増加しました。8月3日には、中新川郡西水橋町で町民200名が集結、米をよそに出すことをやめて欲しいと、米問屋や資産家に嘆願しました。8月6日にはこうした動きが激しさを増して、近隣の町民も巻き込んで1,000名を超える事態になりました。住民らは米がよそに流出することを実力行使で阻止し、相場が40～50銭だった米を35銭で販売させています。
暴騰を続ける米価は、8月1日には1石35円だったものが、9日には50円を超えるまでになっていました。これによって、京都と名古屋を皮切りに、全国で米騒動が発生します。最初は米がよそに出て行くのをやめて、住民に安く撃って欲しいとの哀願だったものが、次第に寄付の強要や打ち壊しにまで発展していきます。名古屋では20,000人の群集が集結したり、京都では1升30銭で米を販売するよう要求し、米問屋が打ち壊されたりしました。値下げを要求すれば米が安くなるという実績を作ってしまい、こうした騒ぎは市から市へ、都市部から町や農村へ、8月20日になる頃には、ほぼ全国的に騒ぎは広まりました。米問屋から炭鉱に騒動の場を移したこの騒ぎは、9月12日の騒動終了まで、50日間続きました。
米騒動は8月17日以降になると、北九州や山口県の炭坑に飛び火していきます。米の価格が暴騰していることから、炭鉱夫らが賃上げ要求に乗り出し、暴動と化しました。沖の山炭坑の騒ぎは住民をも巻き込み、数千人規模の騒ぎに発展しました。米問屋だけではなく、屋敷や遊郭への打ち壊しや放火が起こります。軍隊までもが出動し、ダイナマイトで対抗するなどして、13名が命を落とすなどの大惨事になってしまいました。
米が高騰することで、商人らは米で利ざやを得ようとし、売り惜しみや買占めが起こり始めます。米騒動が起こる前年に、『暴利取締令』が出され、米、鉄、石炭、綿、紙、染料、薬品の買占めや売り惜しみを禁止しましたが、効果は全くありませんでした。1,918年4月には、『外米管理令』を出し、三井物産や鈴木商店などの指定された7社が外国米を大量輸入しましたが、米価の値下げにはつながりませんでした。そこで、8月13日に国費1,000万円を米価対策資金として支出し、米の安売りを各都道府県に向けて実施させましたが、安くすることで米価が下落したとの錯覚を起こしかねないとし、8月28日には安売りを打ち切りました。結果として米価の下落には至りませんでしたが、その年の暮れまでには米騒動当時の価格まで米価が上昇しました。しかし、国民の実質収入が増加していたこともあり、米騒動が再発することはありませんでした。
