人間が化石燃料を主要エネルギー資源として使うようになってから、200年ほどが経過しています。
その間に、人類は歴史上類を見ないほどの公害を幾つも経験することになりました。
石油を燃料として使用することで人類が背負い込んだ環境問題の中でも、重要視されているのが大気汚染と酸性雨なのです。
大気汚染・酸性雨を知る
人間をはじめとする全ての生物は、雨と空気がなくては生きていけません。
雨が降らなければ植物が育たないし、飲料水を川や井戸から汲み上げることはできません。
空気がなければ、生物を構成する細胞が活動することも出来ません。
そして、この雨と空気を汚しているのが大気汚染であり酸性雨なのです。
大気汚染の性質
大気汚染は、基本的に化石燃料を燃焼させることによって発生した酸化物質や粒子状物質によって引き起こされるものです。
石油や石炭は、その生成の過程で窒素や硫黄を成分として取り込んでいますが、それらの成分が燃焼で酸化することで発生する気体は有害なものなのです。その中には紫外線をカットするオゾン層を構成するオゾンも含まれて居ます。
オゾンの化学式はO3で、「酸素の酸化物」と考えることが出来ます。これらの酸化物質は、光化学スモッグの原因物質であると同時に、地球温室化を促進する温室ガスでもあるのです。
酸性雨の性質
化石燃料の燃焼で発生した酸化物質は、酸性を持っています。これらの酸化物質は水と化合できる性質を持っているため、上昇気流などで持ち上げられて雲に合流すると雲の水分と結びついて酸性の液体に変化します。この酸性の液体が混じった雨が酸性雨になるのです。
化石燃料の燃焼が原因
これらの環境破壊は、産業革命によって火力の強い燃料が求められるようになったことがきっかけになったと言えます。現に、産業革命の発信地であるイギリスの首都ロンドンは「霧の都」と呼ばれていますが、この霧は産業革命から石炭を燃やし続けたことで発生し滞留した酸化物質が原因なのです。
1952年には、硫黄酸化物が霧と結びついたことによって発生した亜硫酸ガスによって1万人もの犠牲者を出した「ロンドンスモッグ事件」が起きています。いつ第二・第三のロンドンスモッグが発生するかはわからないのです。
大気汚染の傾向と対策
大気汚染は、石油をはじめとする化石燃料の燃焼によって発生した酸化物質の気体によって発生するものです。
では、どのようにして大気汚染が発生するのか、どのようにすれば大気汚染を抑制できるのでしょうか?
大気汚染は不完全燃焼から発生する
そもそも、大気汚染は燃焼という現象が完全に行われていないことで発生する現象なのです。石油や石炭などの化石燃料には成分として窒素・酸素・硫黄が含まれて居ますが、これらの成分ははっきり言えば不純物です。これらの不純物を除いてから燃焼させれば残るのは主成分の炭化水素なので、燃焼させれば二酸化炭素と水だけが発生します。
しかし、現実には不純物の全てを取り去ることは出来ないのでどうしても酸化物質が発生してしまうのです。また、酸素不足も不完全燃焼の原因です。充分な酸素が供給されないまま燃焼を続けると二酸化炭素ではなく一酸化炭素が発生します。
一酸化炭素には温室効果が確認されていませんが、大気汚染には充分な効果を持っています。これらの酸化物質の発生が大気汚染を進行させるのです。
太陽光で進む大気汚染!?
1970年代以降の日本でもっとも身近だった環境問題は「光化学スモッグ」でした。光化学スモッグは、「光化学オキシダント」という大気中の物質が原因で目や喉に痛みを起こさせる現象です。この光化学オキシダントとは、前述の酸化物質が太陽光によって変化したものなのです。
「光化学オキシダント」の「光化学」とは、太陽光に含まれる紫外線の作用によってオゾンやアルデヒトなどを発生させる光化学反応を、「オキシダント」は酸化物を表しています。光化学反応によって発生するこれらの物質は、毒性を持っています。オゾン層は遥か上空にあるから役に立つのであって、人間の生活圏にあったら邪魔者になるのです。
大気汚染を防ぐには?
では、これらの有害物質の発生を防ぎ、大気汚染を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。まず、第一に「排気ガスの規制・浄化」が挙げられます。光化学スモッグは、無秩序に排出された酸化物質によって起こった現象です。
つまり排気ガスを排出するための条件を決め、条件に適合しなければ排気ガスを伴う燃焼を禁じるなどの規制を行うことで、酸化物質の量を秩序化するのです。排気ガスに含まれる酸化物質自体を、触媒などで除去してから排気ガスを排出するなどの方法も有効です。
石油の燃焼から窒素酸化物・硫黄酸化物を出さなくする
一方、石油業界や自動車業界でも酸化物質の削減のための取り組みが行われています。例えば、ガソリンや軽油などの自動車用燃料から硫黄分を除去することで排気ガスから硫黄酸化物を削減したり、ディーゼルエンジンの吸気機関や排気機関を改良することで窒素酸化物の発生を抑制したりといった技術の実用化です。
特にディーゼルエンジンの改良は、不完全燃焼で粒子状物質化した軽油が排出されることを防ぐ効果もあるため、新しい低公害車のエンジンとしても注目されています。
酸性雨の傾向と対策
もともと、雨は大気中の二酸化炭素の影響で弱酸性を示しています。しかし酸性雨の場合、二酸化炭素よりも強い酸性の物質が取り込まれてしまうので、通常の雨よりもph値が低い酸性の雨になるのです。
酸性雨は、大気汚染とセットになって発生する環境問題であるといえます。大気を汚染した酸化物質は、やがて雲に混じり酸性雨の原因となるからです。酸性雨による影響や、酸性雨を抑制するにはどうすればいいのでしょうか?
酸性雨は二種類ある
実は酸性雨には二種類の原因があります。一つは上昇気流で舞い上がった酸化物質が雲に混じって、雪や雨と言う形で地上に降ってくる「湿性沈着」、もう一つは雲から降り注いだ雨や雪が大気中の酸化物質を取り込んで酸性になる「乾性沈着」です。つまり、雲がなくても酸性雨が降ってくる可能性はゼロではないのです。
酸化物質は風に乗ってくる
現在の日本では、大気汚染や酸性雨の原因になる窒素酸化物や硫黄酸化物の排出には厳しい規制が掛けられています。ですが、酸性雨がまったく降らないというわけではないのです。なぜなら、大気は常に循環しているからです。
近年の日本における大気中の酸化物質は、大陸方面から風に乗ってやってきたものであるといわれています。中国などでは急激な工業化が進行しているため、化石燃料の使用量が増大しているのです。
酸性雨のもたらす被害とは
「雨だれ石を穿つ」という言葉があります。弱弱しい雨でも、一点に集中して垂れればやがて固い石も穴が開くという意味です。酸性雨も、降り続ければやがて様々な被害を出していくのです。
例えば、ドイツのシュバルツバルト(黒い森)という地域では第二次世界大戦以後から降り続いた酸性雨によって、自慢のモミの木が次々に枯れて倒れていきました。また、ギリシアやヨーロッパでは大理石が酸性雨に浸食され建築物や彫刻の表面が黒く汚れ、細部が崩れてしまうという被害が出ています。日本各地でも、酸性雨の被害が表れていて立ち枯れした木が見つかっています。
酸性雨を抑制するためには
酸性雨への対策も、基本的には大気汚染対策と変わりません。大気汚染の場合は窒素酸化物や硫黄酸化物を削減していけば抑制できるのですが、酸性雨の場合これから酸化物質をゼロにしても既に大気中に排出された分の酸化物質だけでも充分だからです。
それに、大気中に排出された酸化物質は一箇所にとどまる性質のものではなく、風に乗って地球上を自由に巡るのです。「酸性なのだからアルカリで中和すれば」という考えもよく耳にしますが、アルカリ性が強すぎると土壌のアルカリ性になって砂漠化が進行してしまいます。
環境問題の場合、「即効性の解決策」というものがなく長期的かつ広範囲での対策を根気よく進めていかなければならないのです。