今、私たちの生活の大部分は石油資源によって支えられているといっても過言ではありません。では、もしも石油資源が使えなくなったら生活のあらゆる面はどのような変化を遂げ、どのようなリスクを負わなければならなくなるのでしょうか?
そして、最初から「石炭から石油への転換」が起こっていなかったらどのような生活を送っていたのでしょうか?
もしも石油が使えなくなったら…… 私たちの身の回りにある石油由来の資源やエネルギーを想像してみてください。
そして、それらの資源やエネルギーに依存している文化について想像してください。もしも、石油資源が明日から使えなくなるということは、それらの文化が断絶することに等しいのです。
車社会の崩壊、輸送手段の限定
まず、一番の影響を受けるのが石油をエネルギーとして使用する業種が大打撃を受けることになります。石油エネルギーで動いている乗り物としては、まず自動車が挙げられます。その次には飛行機・船舶、間接的には電車も含まれます。つまり、私たちの生活に欠かせない交通手段のほとんどが使用できなくなるのです。
自動車の中には薪や石炭などで走るように設計されたものもありましたが、現代の交通事情や環境問題を考えると適切ではないといえます。飛行機に至っては、ライト兄弟が初飛行を行ったころから石油以外のエネルギーで動いていたものは存在していないといっても過言ではありません。
このように、石油に依存した交通手段が崩壊することは輸送手段が乏しくなることでもあるため、僻地などに十分な食料などを送れなくなることは充分にありえます。
産業効率の低下
産業で使用されているエネルギーは、大部分が石油によって供給されています。石油はムラのない安定した熱量と貯蔵スペースが同時に確保できる優れたエネルギー資源なのです。
しかし、石油が使えなくなった場合にはそれらのメリットを帳消しにする代替エネルギー資源に頼らざるを得なくなります。代替となる石炭や薪などは、含有物の関係で熱量にムラが出る事があります。単純な暖房に使う分にはムラは関係ないのですが、熱量を一定に保つ必要がある産業の場合ではそのムラは致命的といえます。
それに加えて、石油によって高いエネルギー効率を生み出してきた発電業自体も、一気に発電効率が下がるため石油を直接使わない産業も影響を受けて産業界自体が後退する可能性があるのです。
プラスチックが使えない
近年は土に埋めておくと分解される生物由来のプラスチックもありますが、産業で使われるプラスチックの大部分は石油由来のものです。石油資源が使えなくなるということは、プラスチックの生産が出来なくなることでもあるので、生物由来プラスチックへの転換を進めるしかありません。または、プラスチックの代替で木材・竹・ブリキなどの材料に立ち戻る可能性もあります。
インフラの転換による膨大な投資の発生
しかし、一番の問題となるのは「石油に依存するインフラ」を「代替エネルギー資源に依存するインフラ」に、短期間で転換しなければならないということです。その範囲は発電所から日本中の自動車、飛行機、船舶などの交通手段、工場などと幅広いものです。
このインフラ転換は確実にかつ急速に行わなければならないものなので、人員の確保や資材の確保などで莫大な資本の投入が必要になってしまうのです。この資本投入を耐え抜けず、脱落する国や企業も出てくることは容易に想像できます。つまり、経済的なチャンスでありながらチャンスを活かすことが出来ないのです。
環境問題と生活水準維持の両立の難しさ
「石油資源が使えなくなったとしたら」と聞かれたら、「石油を使っていなかった頃に戻ればいいだけ」と答える人は少なくないかもしれません。しかし、生活水準そのものも半世紀から一世紀前までに巻き戻さなければならないと言われたら「それはダメだ、生活水準は今のままでないと」と答える人も少ないでしょう。
人間は便利な現代を完全に捨てることは出来ないのです。そして、現代の生活基準を維持するためには石油の代替となる石炭や薪などの既存エネルギー資源を、今まで以上に使用していかなければなりません。そうなると地球温暖化や大気汚染がより一層激しくなる可能性も出てきます。
生活水準を維持するためには環境を犠牲にしなければならなくなるでしょう。このように、環境問題と生活水準維持の両立は、一種の矛盾なのです。
代替エネルギーの実用化の問題
「石油が無くなったら新しいエネルギー資源を見つければいい」と考えている人も多いでしょう。現実に、火力発電への比重を軽減するために様々な発電方法の研究が進められていますが、火力発電は石炭が主流だった時代から行われてきた発電手段なのでその技術などは洗練されています。すなわち、石油による火力発電の効率は他の発電手段よりも優れているのです。
太陽光発電や風力発電は天候に効率が左右され、潮力発電や地熱発電は研究途上であるため、今すぐに火力発電に変わる発電方法が登場するとは言えません。また、石油に代わる新しいエネルギー資源にはバイオマスエネルギーやメタンハイドレードなどがありますが、これらは未だ完全に実用化したとは言えません。
なぜなら、エネルギーの開発・利用を石油エネルギーに依存しているからです。エネルギーの実用の条件には、「自己開発が可能であること」があります。採取したエネルギーの総量が、エネルギー採取に使う分を超えていることが重要になるのです。石油に代わる新エネルギーのほとんどは、自己開発さえままならないのです。
石油がもしもなくなったら?
では、今後確実にやってくる世界的な石油資源の枯渇に対してどのような手段を講じればよいのでしょうか?
新世代の主力エネルギー資源の開発・実用化地球上の石油資源は「あと40年しか持たない」と考えられています。現在20歳の男性が60歳になって、孫が生まれているかという長いスパンです。現在0歳の女性ならば、子供も手が掛からなくなってきている頃です。この長い年月を掛けて、石油資源が完全に掘り尽くされる前に次世代のエネルギー資源を実用化に持っていけばよいのです。
石油資源を回復させる方法を開発する第二の手段としては、「人工的に石油を作り出す」方法を確立することです。石油の有機由来説・無機由来説のどちらでも、極端に言ってしまえば「炭化水素を高温・高圧で変質させる」ことが石油を生み出す条件となっています。これを機械的に行う方法などを開発してしまえば、石油資源の枯渇は半永久的に訪れないことになるのです。