それゆけ!石油探検隊

硫黄酸化物

硫黄は、温泉地などに行くと匂いとしてその存在を実感することが出来ます。 鼻にツンと来る腐った卵のような刺激臭は、日常生活では嗅ぎ取る機会が少ないからです。
そんな硫黄は鉱物資源として、盛んに採掘されていた時期もあったのですが現代では大気汚染などの環境破壊問題の原因として扱われるようになっています。

硫黄の性質

硫黄の性質

硫黄は、自然界においては火山などで見られる物質です。火山の噴火によって吹き上がる火山ガスの中に含まれるだけでなく、硫黄泉という形で温泉として噴出すこともあります。

また、硫黄は炭素のように硫黄原子同士の結びつき方の変化によって別の性質を持った「同素体」を作り出す性質を持っています。
そのため、学校で硫黄の同素体を生成する実験を行うことがあります。

硫黄は人体に必要不可欠

人間の身体には、「必須元素」と言うものがあります。たとえば鉄は、赤血球のヘモグロビンとして全身に酸素を運ぶ役目を持っています。ヨウ素は、甲状腺ホルモンとして新陳代謝を行う役目を持っています。
硫黄もまた必須元素の一つで、髪の毛に含まれるシステインや必須アミノ酸のメチオニンなどの形で体内に存在しています。また、硫黄泉は皮膚病に効果があるだけでなく気管拡張の効果があります。
硫黄泉から立ち上る硫黄イオンは、インシュリンの分泌を活発にする効果があり糖尿病の改善の効果もあるのです。そのため、硫黄泉はメタボリックシンドロームにも効くと人気が高まっています。ただ、硫黄泉から出る硫化水素は吸いすぎると健康に害を及ぼすので、出来るだけ換気に気をつけなくてはなりません。

工業・農業にも必要な硫黄

硫黄は人体のみならず、工業や農業にもなくてはならない物質です。たとえばマッチには必ず硫黄が使われています。日本において採掘された硫黄の大部分はマッチ製造に使用されていましたが、ライターへの需要の転換などからマッチの生産量は減少傾向にあります。
また、ゴムに硫黄を混ぜると硬度が増してエボナイトと言う物質に変化します。また、農業でも硫黄の需要は存在しています。人間と同じく、植物にも必須元素が存在しています。植物の場合この必須元素17種がなければ生育できないのです。
この植物必須元素の中にも硫黄は含まれて居ます。硫黄は植物の酸化還元やたんぱく質の合成に関わり、光合成を行うための葉緑素の生成には欠かせない元素なのです。また、カルシウムと硫黄を化合させた多硫化カルシウムは「石灰硫黄合剤」という農薬としても使用されています。

硫黄による環境破壊

硫黄による環境破壊しかし、硫黄は私たちの生活を支えているだけではありません。硫黄化合物の中には、私たちが良く知っている物質が存在しています。

その一つが硫酸です。硫酸は三酸化硫黄が水と反応して、高熱を発しながら生成されます。硫酸は「何でも溶かす液体」と言うイメージが強い物質ですが、実際は濃度が高い濃硫酸よりも濃度が低い希硫酸の方が溶かす力は強いのです。
そんな硫酸も自然の中で発生する可能性を生み出すのが、硫黄酸化物なのです。

化石燃料の使用によって発生する硫黄酸化物

石油や石炭などの化石燃料は、その由来はともかくとしても硫黄を成分中に含んでいます。そのため、化石燃料を燃焼させることで硫黄が酸化されて硫黄酸化物が発生するのです。
硫黄酸化物には前述の三酸化硫黄も含まれますが、化石燃料の燃焼で発生する硫黄酸化物の大部分は二酸化硫黄です。二酸化硫黄は火山ガスにも含まれていますが、自然に発生するものより化石燃料を燃焼させた際に発生するものの方が多いのです。

硫黄酸化物の発生は何につながるか

硫酸の元となる三酸化硫黄は、人工的に触媒を使って二酸化硫黄を酸化させなければ発生しない物質ですが、二酸化硫黄は自然に発生することがある物質です。二酸化硫黄が水と化合すると亜硫酸を発生させます。
亜硫酸は水との反応によって三酸化硫黄を発生させるため、硫酸が発生しやすい状態を生み出します。発生した硫黄酸化物はやがて気流に乗って上昇し、雲の水分と結びつくことで酸性雨を降らせるのです。

硫黄酸化物の削減のためには

硫黄酸化物は酸性雨にならない気体の時点でも、大気汚染を引き起こします。四日市ぜんそくは、工場から排出された硫黄酸化物が原因でした。四日市ぜんそく以降から、排気ガスから硫黄酸化物を削減する取り組みが官民共同で行われてきました。
たとえば、工業用燃料を重油から硫黄分の少ない原油に切り替える、石油製品から硫黄分を除去するなどです。この取り組みは功を奏し、日本における排気ガス中の硫黄酸化物は減少傾向にあります。

硫黄酸化物のこれから

石油製品からの硫黄除去は思わぬ副産物を生み出しました。除去された硫黄は純度が高く鉱山から採掘される硫黄よりも上質なのです。これにより鉱業商品としての硫黄の価値は激減し、日本国内全ての硫黄鉱山は閉山しています。
しかし、中国などの工業化が進む国では硫黄酸化物の削減が不十分なため、大陸方面からの偏西風に乗って日本へと流されていることが問題となっています。