ゴムは、私たちの日常生活には欠かせない素材の一つです。輪ゴムに始まり、衣類や長靴に風船などなど、見回せば必ず一つはゴムから作られています。
ゴムの原料は、ゴムの木からとった樹液であることは子供でも知っています。
しかし、全てのゴム製品が天然のゴム樹液から作られているわけではないのです。
ゴムも石油で作り出せる!?
ゴムが世界中に知られるようになったのは、大航海時代以降の16世紀のことといわれています。
南米の先住者と出会ったヨーロッパからの船団は、様々な新発見を本国へと持ち帰っていきました。その時、コーヒーやチョコレートなどとともに持ち込まれたのがゴムだったのです。
この時に持ち込まれたのが、現在のチューインガムの元であるチクルであるといわれています。
ゴムを巡る競争
天然のゴム樹液を分泌するゴムノキは南米にしか生育しておらずブラジルの基幹産業となっていたのですが、イギリスでは「同じような気候条件の土地でならば育つのでは」と考えていました。そのため、イギリスがアジアに植民地を持ち始めた18世紀ごろからゴムノキの苗や種を持ち出し、植民地で栽培しようという計画が打ち出されました。
もちろん、ブラジルも自分たちの産業を邪魔されるようで面白くないので、ゴムノキの国外持ち出しを厳しく禁止しました。イギリスから派遣された植物学者たちは、ブラジル政府の監視の目を掻い潜り、ゴムノキの種子や苗を国外に持ち出すことに成功したのでした。これによって現在では、ゴムノキはブラジルだけでなくマレーシアやインドネシアなどの東南アジアで栽培されています。
ゴムタイヤが使われるようになったのは
昔の自動車や自転車の車輪には木製の車輪か、それに鉄輪をはめたものが主流でした。しかも、道路もろくに舗装されていない時代ですからガタガタと揺れ続けるものですからケガも耐えないという代物だったのです。
自動車や自転車の車輪にゴムのタイヤを使うようになったのは19世紀からですが、そのゴムタイヤも中までみっちりとゴムが詰まっているという代物でした。そんな中、1887年にイギリスの獣医師であるダンロップが自転車用の空気入りタイヤを実用化したのです。
一方、自動車用の空気入りタイヤは1895年にフランスのミシュラン兄弟によって実用化されました。その後ダンロップとミシュランが設立した会社は、現代でもタイヤ会社としてその名を知られています。
窮余の策としての合成ゴムの誕生
そして、ガソリン自動車が実用化されゴムの需要が高まる中、国際世情の関係から天然ゴムを入手できない状態に陥る国が現れました。何しろ、天然ゴムを手に入れるにはブラジルかイギリスと取引するしかありません。その両方ともと取引できなければ、自分で作るしかないのです。そういった中で、合成ゴムの研究が進められ実用に耐えうる合成ゴムの完成に至ったのです。
合成ゴムの秘密とは?
では、なぜ天然の樹液からしか製造できないと思われていたゴムが人工的に合成することが出来るようになったのでしょうか?
ゴムの性質
合成ゴムを作ることが出来るようになったのは、ゴムの弾力を支えている成分に秘密があります。ゴム樹液に含まれるポリイソプレンと言う成分が、ゴム独特の弾力を生み出す秘密なのです。
このポリイソプレンは、炭化水素のイソプレンが樹木内で重合されたことによって生成されている高分子です。このポリイソプレンはゴムノキの中で水分などともに樹液に含まれています。
なぜ、ゴムノキがポリイソプレンを合成するようになったかには「昆虫などの害虫への対抗策」と言う説があります。つまり、ゴムを人工的に合成するにはこのポリイソプレンを合成すればよいということなのです。
石油からゴムが作られるようになるまで
ポリイソプレンの元となるイソプレンは炭化水素の一種です。となると、合成ゴムの原料にふさわしいのは石油や石炭などの炭化水素を含む鉱物と言うことになります。そして、最初に合成ゴムを開発したのがドイツだったのです。
1914年にドイツは、不飽和炭化水素のジメチルブタジエンを重合反応させたメチルゴムの開発に成功し、メチルゴムを工業生産して2000トンのゴム素材を確保しています。その後もドイツは合成ゴムの研究を進め、不飽和炭化水素のブタジエンをスチレンやアクリロニトリルと重合させた合成ゴムの開発に成功し、天然ゴムに匹敵する資源を確保したのでした。
ドイツ以外でも合成ゴムの必要性が叫ばれるようになり、各国で合成ゴムの研究が盛んに進んだことによって、現在使われている自動車のタイヤはほとんどが合成ゴムで製造されています。
合成ゴムの種類
現在使われている合成ゴムは、ドイツの開発した合成ゴムを基盤とした技術で製造されています。
スチレン・ブタジエンゴム
スチレン・ブタジエンゴムは、ドイツが1933年に「ブナS」という名称で開発した合成ゴムです。原料となるエチレンとブタジエンは炭化水素なので、石油から得ることが出来ます。70年以上前に開発されたスチレン・ブタジエンゴムは、現在でも自動車用タイヤの原料として使用されています。
ニトリルゴム
ニトリルゴムも、ドイツが1934年に開発し「ブナN」と言う名称で生産されていた合成ゴムです。ニトリルゴムは、アクリロニトリルとブタジエンを合成して作られていますがアクリロニトリルの量を増やすことで油への耐性が強くなるのでガソリンタンクなどの自動車部品用途に使用されています。
ブタジエンゴム
ブタジエンゴムは、ブタジエンを重合反応させて高分子にした合成ゴムです。そのため他の合成ゴムよりもプラスチックに近い性質と強度を持ったゴムとなっています。ブタジエンゴムはスチレン・ブタジエンゴムと並ぶ汎用ゴムとして使用されています。
イソプレンゴム
イソプレンゴムは、天然ゴムと同じくイソプレンを高分子にしたポリイソプレンを主成分とする合成ゴムです。そのため、天然ゴムの完全代替素材として使用することが可能な素材なのです。
クロロプレンゴム
クロロプレンゴムは、ナイロンの発明者が開発した合成ゴムです。石油から得られるクロロプレンを重合させて高分子化したもので、ブナS・ブナNと同時期に開発された合成ゴムでもあります。クロロプレンゴムは熱に強い性質を持ち、ウェットスーツなどに使用されています。
シリコーンゴム
シリコーンゴムは炭素ではなく珪素を使用して作られた合成ゴムです。炭化水素を使用した合成ゴムに比べて物理的な力に弱いため、充填剤や電気部品などに用いられます。