現代における昆虫食は、人類が長い年月を掛けて昆虫ごとに適した調理法を研究した積み重ねによって成り立っているものです。
試行錯誤を重ねる中で、食用に適する昆虫と食用に適さない昆虫の選別が進み、それぞれの調理法が確立されていったのです。では、食用に向く昆虫とは一体どのような条件を満たしたものなのでしょうか?
食用に向く昆虫の条件を考える前に、私たちが普段口にしている食べ物の中で、「食べやすい」・「食べられる」と考える条件をもう一度考え直していく必要があります。昆虫といえども、食用に供する以上は「食べやすい」・「食べられる」条件を満たしているということなのです。
「食べやすい」ということ
まず、私たちが食べ物を「食べやすい」と感じるのはどんな時でしょうか。まず考えられるのは「適当な固さを持っている」ことです。
歯ごたえは食感という美味しさを感じる要素の一つになりますが、固すぎても柔らかすぎても駄目なのです。適度な歯ごたえは咀嚼を繰り返す原動力となり、唾液を分泌させて食欲を増進させる効果を生み出します。
つまり、昆虫食においても調理後は適度な固さを保っていることが必要不可欠な条件と言えます。
「食べられる」ということ
人間の味覚は、「食べられる」「食べられない」を見分けるバロメーターとして機能していると言われています。
これは見かけだけでは腐敗しているかどうかわからないものや、身体に良くないものを飲み込んでしまわないようにするために、人体が手に入れた防御機構であるといわれています。
つまり適当な歯ごたえがあっても、味が悪くては駄目なのです。
食用に適する昆虫とは?
ではこれらの条件を考慮した場合、どのような昆虫が食用に適しているのでしょうか。
殻が固すぎないこと
まず、「外骨格が固すぎない」ことが考えられます。昆虫は体を内部骨格ではなく外骨格と呼ばれる殻で支えています。
この外骨格はカニの甲羅と同じキチン質で出来ているので、固い殻を持っていても加熱して粉末などに加工すれば残さず食べることが出来ますが、あまり現実的ではありません。
つまり、歯で噛み切れる程度の固さを持ったものが適していると言えます。
不味すぎないこと
昆虫食が敬遠される理由には、グロテスクな見た目から感じる味の悪さにあるます。
俗に「グロテスクなものほど美味である」と言われていますが、昆虫食は調理するとどうしても形状が強調されてしまい、初心者には箸が伸ばしにくいという弱点があります。
つまり、食用昆虫には「昆虫食を肯定するだけの味」を持っていることが望まれるのです。
では、どのような昆虫が食用として食べられているのでしょうか。
柔らかく滋味に富んだ芋虫
中国やオーストラリアでは、蛾の幼虫(芋虫)が好んで食べられています。中国では、竹に寄生する性質を持ったメイガ・ツトガの幼虫を「竹虫」と呼び、高級食材として珍重しています。オーストラリアでは、木の枝の中に卵を産み付けるヤガの幼虫を「ウィッチェティ・グラブ」と呼び、蒸し焼きにしたものを食べる食文化を持っています。
これらの芋虫は柔らかく、火を通すことで焼き目が付いて適度な歯ごたえが出ること、噛んだ時濃厚なクリームを口にしたようなまろやかな味わいが特徴となっています。
歯ごたえのあるセミ
実はセミを食べる習慣は、日本のみならず中国や東南アジア・アメリカなどにも存在しています。アメリカに生息するセミとして有名なのは17年周期で大発生するジュウナナネンゼミが居ますが、このジュウナナネンゼミの成虫をフライにして食べるという習慣があるのです。
セミは腹腔部が空洞になっていますが、腹の部位は特に歯ごたえがあって最も美味であると言われています。
サクサク感のバッタ
時として農作物を荒らすイナゴは、バッタが大量発生することで変異を起こしたものも含んでいます。農家にとってはイナゴやバッタは作物を荒らす害虫であるのですが、同時に貴重なタンパク源でもあるのです。
イナゴは主に佃煮にして食されますが、佃煮には保存性を高める目的もあったようです。バッタは炒めるとサクサクとしたスナック菓子のような食感と、しっかりした肉質を味わうことが出来ます。
肉質のよい甲虫
カブトムシやクワガタムシ、カミキリムシなどは昆虫の中でも固い殻を持っていることで知られています。この固い殻は、内側にみっちりと詰まった身肉を支えるためのものなのです。
甲虫類は、この外骨格をつけたまま蒸し焼きにして食べる時に外すか、先に外骨格を外してから調理するという形になります。甲虫の身肉はプリプリとした魚のような質感を持ち歯ごたえに富んでいます。
結論から言えば、「食べられない昆虫はいない」と言えます。火を通せば、ほとんどの昆虫は食用に向いた味わいが出てきますし、外骨格と身が外れやすくなって食べやすくなります。ただ、カメムシのように強い匂いを出し、匂いの元が取りづらい昆虫は食用にしない方が無難でしょう。