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私たちの生活の中で、日々の活力を生み出してくれるものの一つに音楽があります。心が深く沈んだ時や、悲しい気持ちを吹き飛ばしたい時などに音楽は心の支えになってくれます。また、演劇は非日常的な空気を送り込む役割を果たし、日常生活を送る為の活力剤ともなってくれます。そんな音楽と演劇に関わる知的財産権が演奏権と上演権なのです。

上演権・演奏権の基礎知識

上演権・演奏権は著作財産権に属する権利で、演劇や音楽演奏を不特定多数の公衆の前で公開する為に必要な権利です。基本的には演劇や音楽の著作権者に許可を得て、演劇の上演や音楽の演奏を行います。

上演権で注意しなければならないこと

頒布権の重要性の再確認

学校の演劇部で行われる演劇は、基本的にシェイクスピアなどの著作権の失効している古典演劇などが多いかと思われます。中には現代劇やオリジナル脚本を用意して上演する部もあるかもしれません。しかし、中には「有名な劇団の脚本を使いたい!」と意欲を燃やす演劇部員が居るかもしれません。脚本を書籍などから見つけてきて、アレンジして、いざ上演……ちょっと待ってください。その演劇は許可をもらっていますか?

脚本も著作物である

著作権法において、著作物は「思想や感情を元に創作された文学・美術・音楽・学術などの範疇に入るもの」と定義されています。演劇の脚本は文学と音楽に跨った著作物なのです。その為、演劇の脚本にも著作者人格権と著作財産権が発生します。つまり、脚本の著作者に無許可での演劇の上演、脚本の内容の改変はそれぞれ上演権、同一性保持権によって禁じられます。また、脚本家の名前を明示せずに上演を行うのは氏名表示権の侵害となります。

上演権の落とし穴

こういった無断上演が後を断たないのには、著作権法の条文に原因の一端があるようです。著作権法第三十八条第一項には「公表された著作物は営利を目的とせず、かつ、聴衆または観衆から対価を受けない場合には、公に上演・演奏・後述することができる」とされています。つまり「無償による演劇の上演は著作権所有者に許可を得なくてもよい」と言うことなのです。ただ、脚本家や劇団によっては「どのような条件でも上演禁止」「脚本を使用する料金が発生」としているので、無許可で上演することはなるべく避けたほうが良さそうです。

演奏権で注意すべきこと

上演権を踏まえると、演奏権もまた無償で演奏する場合は著作権所有者に許可なく行うことが出来ます。ただし、人気女性シンガーの曲をメタルにアレンジするなどの独自のアレンジを演奏曲に施すのは、同一性保持権に反することになります。しかし、音楽の演奏の場合はもっと注意しなければならないことがあるのです。

音楽を管理するJASRACとは?
頒布権の重要性の再確認

音楽を演奏する上で、一番注意しなければならないのがJASRACです。JASRACは正式には「日本音楽著作権協会」、Japanese Society for Rights of Authors, Composers and Publishersの略称です。JASRACは演奏権を含む「日本国内外の音楽に関する著作権」を管理し、著作権使用料を徴収する団体です。2000年に、著作権等管理事業法が制定されたことによって音楽著作権管理団体はJASRACの独占事業ではなくなったのですが、現在でもJASRACは99%のシェアを誇っています。

JASRAC誕生秘話

そもそも、JASRACが創設されるようになったきっかけは1931年に遡ります。教師として日本にやってきたドイツ人教師のウィルヘルム・プラーゲが、日本で演奏されているヨーロッパの音楽の著作権を管理する団体から代理権を取得したとして、日本国内の放送局・楽団に対して楽曲使用料を請求したのです。この使用料はかなりの高額なものの上、法的措置も辞さずという強硬姿勢を見せた為、「プラーゲ旋風」と恐れられたのです。このため、政府は急遽「著作権に関する仲介業務に関する法律」、通称仲介業務法を制定し1939年にはJASRACが設立される運びとなったのです。つまり、著作権管理業務団体とは一人のドイツ人によって作り出されたのです。この後プラーゲは、仲介業務法違反で罰金刑を取られ日本を離れることになりました。

JASRACを巡る問題

このような経緯で設立されたJASRACは、音楽使用料の支払い体系を整理して放送局での使用を円滑に行えるようにするなど、音楽と放送に様々な功績を残してきました。しかし、近年では悪評を一身に受ける権利団体として批難を受けるようになって来ました。

ジャズ喫茶などからの音楽演奏料の徴収

著作権

JASRACの活動において、もっとも嫌われているのが店舗からの著作権料徴収です。放送局相手には定額を払っていれば音楽使用は無制限に行えるコースがあるのですが、個人経営の店舗にはそういったお得なコースが存在していないだけでなく、JASRAC管理ではないオリジナル曲や権利が失効したクラシックを演奏している店舗からも使用料を徴収し、時には演奏権侵害として訴訟にまで持ち込むのです。また、JASRAC管理楽曲を演奏しているかを確認しに来たJASRAC職員が管理楽曲をリクエストするという噂まで立つほど、その徴収は苛烈と言われています。さらには、著作権法で無償が許されているはずの幼稚園のお遊戯会からも徴収しようとしたことまであるというのです。

ネット上の音楽の規制

著作権

コンピューター上で音楽を演奏する為の共通規格であるMIDIファイルは、プロ・アマチュア問わず利用されているほど、人気のあるものです。JASRACは「MIDIファイルはCDの売り上げを阻害する」として、管理楽曲を演奏したネット上のMIDIファイルを認可制としました。しかし、この制度導入の前後に管理楽曲を一切取り扱っていないサイトにまで使用料徴収のメールを送っていたことが問題となっています。

徴収した使用料の行方

回路配置利用権

そして、JASRACの問題として一番を大きいのは、徴収した楽曲使用料の分配です。あるアーティストが自分で作詞した曲の歌詞を著書に引用した際に、JASRACに使用料を払うことになったにもかかわらずその引用文の使用料が入ってこなかったというエピソードがあります。また、JASRACの幹部は元官僚が多いだとか他の社団法人よりも役員の給与が良いといった会計の不明瞭さも問題となっています。

JASRACの良い所は?

しかし、JASRACに良い所が無いというわけではありません。決められた使用料を払いさえすれば、音楽が目的に応じて使用できるというシステムは他のベルヌ条約加盟国に比べても、先進的でスマートであるとさえ言われているのです。ただ、前述の問題が山積している現状を見ると、「素晴らしいシステムが集金装置としてしか働いていない」という批判を免れるものではないのです。JASRACを評するとすれば「人のやっていることがクリーンではない」という一言に集約されるのではないでしょうか。

演奏権・上演権を守ることの本質

そもそも、著作財産権は「著作者が不当な行為の為に、本来受け取れるはずの対価を受け取れないという事態を防ぐ為の権利」なのです。つまり防衛の為の権利と言えます。権利と言うものは、「自己利益のための他者攻撃の手段」として用いることも出来ます。しかし、それは憲法に保証される「法の下での平等」を侵害する行為なのです。互いが互いの権利を認め合い、三方一両損程度に丸く治める方法を模索し実行することが、上演権・演奏権を含む知的財産権の時代に必要なのです。