鰹節は、日本の生み出した食材の中でも奇抜な存在です。鰹節は木材のように堅く、食べる時はカンナのような削り器を使って削り節にして使うという類を見ないものです。
最近はパック詰めにされた削り節を使う家庭がほとんどですが、鰹節とはどのようにして作り、どのようにして使うものなのかを解説していきます!
鰹節の原料であるカツオは、縄文時代から日本人に親しまれてきた魚であることが知られています。
鰹節の原型となった干し鰹自体は5世紀ごろには既に作られ始めていたようです。
江戸時代に入ると燻製して乾燥を早める手法が開発され、鰹節はより身近なものになっていったのです。
洗練された鰹節の作り方
鰹節は通常の魚の干物とは全然違う形になっていますが、これは美味しさを求めた先人たちの工夫によって編み出された製法によるものなのです。
鰹節は、天日干しにするまでに独特の工程を踏んでいます。これによって、鰹節は独特の形状と類稀なる美味さを引き出されるのです。
驚くべきは、この製造過程が江戸時代に既に成立していたということです。
その1「形を整える」
まず、鰹節にするカツオは頭を落として内臓を抜き、三枚に下ろします。三枚に下ろした身は背骨に添って二分割して四片にします。
切り分けたカツオは一度お湯で二時間ほど煮て加工しやすくします。釜から上げたカツオは丹念に骨を抜き、余分な脂肪分を削ぎ落としていきます。
骨を抜いた後はすり身にしたカツオを塗りこんで、形を整えます。
その2「燻して水分を抜く」
煮込んで形を整えたカツオは、ナラやカツラやサクラといった木を使って薫煙します。燻製の煙で匂い付けと乾燥を行うのです。
この薫煙作業は一ヶ月近くに渡って行われ、カツオの身の水分を飛ばすのです。この薫煙作業が終わった段階の鰹節を「荒節」といいます。
その3「カビをつけて完成!?」
荒節に加工されたカツオは、脂の乗り方を基準に選別された後に薫煙作業で表面に付着したタール分を削り落としてさらに整形していきます。
整形が終わった荒節には、有益なコウジカビを表面に植え付け、天日干しを行っていきます。このコウジカビ付けは2~3回ほど行われます。
カビ付けを行った鰹節は「本枯節」と呼ばれる最高級品になるのです。
なぜ鰹節にカビをつけるのか
鰹節独特の工程といえる「カビ付け」は何のために行われるのでしょうか?
実は、このカビ付けこそが鰹節の最大の特徴を生み出しているのです。旬のカツオを思い浮かべてください。脂が良く乗っていて、身がとろけるような柔らかさのカツオです。出来上がった鰹節で出汁をとると、この脂はどこにもありません。
「鰹節に加工されると脂が消える」ことこそがカビ付けの最大の意義なのです。
カビの力でより美味しくなる鰹節
鰹節に付いたコウジカビは、菌糸を身の奥にまで伸ばすことで水分を吸い上げます。この時、カビの菌糸は身に残っている脂肪分を分解して、身のたんぱく質を分解していきます。分解された脂肪分は脂肪酸になり、分解されたたんぱく質はアミノ酸へと変化します。脂肪酸は鰹節独特の風味を強め、アミノ酸はうま味をより強くします。
脂肪酸とたんぱく質が分解されることによって、鰹節で取った出汁は透明度が高いのです。この透明度の高い出汁が和風料理の淡い味付けを支えているのです。
世界一!? 鰹節の凄さとは
鰹節は「世界一堅い食べ物」であると言われています。
東南アジアにも鰹節のように魚を乾燥させた「モルディブ・フィッシュ」という素材があるのですが、鰹節ほど硬くはありません。鰹節の硬さは、薫煙や天日干しのみならずカビ付けまで行って徹底的に水分を取り除くことで成り立っているのです。
この鰹節の硬さは鰹節の保存性をも高めています。鰹節の保存性の高さは非常食としても使えるほどで、南極の昭和基地などにも常備されていると言います。
では、鰹節を使って出汁を取るにはどうすればいいのでしょうか。
鰹節の削り方から鰹節の保存法、カツオだしのとり方をあわせて紹介します!
鰹節の削り方
まず、本格的な枯節を使った鰹節の削り方から紹介していきます。
枯節の表面にはカビが付いていますが、カビが気になるという人は削る前に乾いた布巾などで軽くふき取りましょう。カビを水で洗い流すと有害なカビが生えやすくなってしまい保存性が悪くなります。
鰹節削り器はどのようなものでも構いませんが、削る前には必ず刃を点検しましょう。削り器の刃は基本的にカンナと同じで、刃を出したい時には刃の頭の部分を金槌で叩き、刃を引っ込めたい時は台の上部の部分を金槌で叩きます。刃は出ているか出ていないか位がちょうど良いようです。
鰹節を削るときは、大きくなっている頭のほうから削っていきます。刃の手入れがされている削り器なら、力を入れなくてもスムーズに削れます。
鰹節の保存方法
削った後の鰹節や買ってきた鰹節はどのように保存すればよいのでしょうか。
湿気の高い場所においておくと、表面を覆うコウジカビ以外の有害なカビが生えやすくなります。風通しの良いところに置くと、鰹節を好物とする虫やダニが発生することがあります。それに加えて、使用後の鰹節は酸化して味が落ちやすくなります。
なので、鰹節はラップなどに包んで空気に触れない状態にして湿気の少ない場所で保存します。
カツオだしのとり方
鰹節を削って作った、または市販の削り節が用意できたら鍋に水を汲んで火に掛けて沸騰させます。水1リットルに対し、削り節は一掴み(35g程度)用意します。
水が沸騰したら弱火にして、高温で鰹節の風味が飛ばないようにします。煮る時間は3分から5分程度で、アクが浮いてきたらこまめに取ります。
煮立ってきたら火を止めて、ガーゼなどで出汁を濾して出来上がりです。
昆布と合わせた「一番だし」の取り方
日本料理に欠かせない「一番だし」は、昆布と鰹節を合わせて出汁を取ったものです。
単純に見える「一番だし」は、日本料理の味を作る土台となっているのです。
一番だしの材料
水1リットル、昆布…40g、鰹節…40g
一番だしの作り方
- まず鍋に水を注いで、表面を拭いて湿らせた昆布を入れます。
- 鍋を火に掛けて沸騰直前まで煮立て、昆布のうま味を引き出します。
- 昆布だしは一度火を止めるか差し水をするかして、温度を下げます。適当な温度に下がったら、再び鍋を火に掛けて鰹節を投入します。
- アクが浮いてきたらこまめに取り、煮立つまで加熱します。
- 煮立ったら火を止めて、出汁を濾して出来上がりです。
一番だしを作った後は
一番だしに使った昆布と鰹節は、もう一度出汁を取ることができます。
新しい鰹節を少量加えて、一番だしと同じやり方で出汁を取ると「二番だし」になります。出汁を取った昆布と鰹節は、醤油を絡めた佃煮や醤油で炒ったふりかけなどに利用できます。