脳は、今まで見てきたように、部分部分に分けられ、それぞれに名称がつけられており、さらに場所によって働きが違うというお話もしてきました。また、人間と他の生物とに違いに関してや、男と女の違いに関してもわかってきたことがあります。
しかし、最近の脳の研究は日進月歩のごとく進んでおり、今まで常識だと思われていたことが覆されつつあるということがいくつもあるのです。
脳の役割の違いは何か
と、いきなり今まで書いてきたことを否定するような文章を書いてますが、実は、最近の研究では、役割の違いに関して非常に面白いことがわかってきているのです。
脳の場所と機能の関連性の話は19世紀に入ってからでたもの
脳の場所によって特定の機能が決まっているのではないかと考えられるようになったのは19世紀に入ってからです。
このころは今のようなレントゲンやMRI など内部を詳細に観測する手段はなく、もっぱら実際の患者の症状と、その患者がなくなったあとの解剖による関連性の研究でした。この時代の研究者たちは、 1つ1つの例を個別に分析し、その傾向を纏め上げるという非常に労力のかかる方法で研究を行っていたわけです。
その地道な努力の結果、ある特定の症状がでる患者は脳の同じ部分に異変が見られるということがわかってきて、そこから各部の働きが推測されるようになっていきました。
脳機能局在論
その理論を推し進めることにより、「人間の脳は場所によって役割が決まっているのではないか、そして、その機能の集まりが一かたまりとなって脳を構成しているのではないか」といわれるようになっていきます。これが脳機能局在論です。
「人間の脳は話をする役割を持っているパーツと、運動する役割を持っているパーツと、その他もろもろの役割を持つパーツを組み合わせてできている」という理論です。
プログラム処理をするCPUと、データを蓄えておくメモリーと、画面表示するグラフィックボードと、その他もろもろの機能を持つパーツを組み合わせるとパソコンになるみたいなもんです。
臨床結果と医療技術の進歩によって、脳の場所と人間の機能との関連性がわかってくるようになり、各部の働きが徐々に判明するようになっていきました。
脳機能局在論のゆらぎ
しかし、21世紀に入り、より詳しい観測方法と理論発展が進むと、この脳機能局在論に疑問を持つ医学者が出てきます。
いくつか疑問は提起されていますが、例えば、脳梗塞などで一部に障害が出たとします。脳の中の言語を担当している部分が壊されれば言語障害になりますし、運動を担っている部分が壊されれば体の動きに障害が出ます。しかし、一旦脳の一部が壊されてしまっても、時間がたつにつれて徐々に体の機能は回復していきます。これは、壊されてしまった部分の機能を他の場所が担当するようになったからではないかというわけです。
もし、脳の場所によって役割が決まっているのならば、一旦失われた機能は二度と戻ることはないはずである、しかし、現に機能が回復している以上、脳の役割は場所によって決まっているわけではないんじゃないか、こういった理論が最近提唱されているのです。つまり、人間の脳は「ここはこの機能、ここはこの機能」と生まれつき決まっているわけではなくて、人間が生きていく過程で「この機能はここの部分で、この機能はここの部分で」と担当が割り振られていくんだろう、そして、その役割が人間であれば大体同じ場所に作られていくんだろうというのです。
脳の役割の違いに関する事柄は研究途上
以上のことからもわかるように、脳に関して今まで当たり前だと思われていた事柄が近年疑問視されていることは多いです。後で詳しく見ていきますが、我々がイメージとして持っている右脳がどうとか左脳がどうとかの話も実は非常に眉唾ものなのです。
現実的には、脳の場所によっての機能が後天的だとしても決まっているのは事実なので、先ほどまで説明してきた脳の役割に関しては間違いないところではありますが、100%不変のものであるというのはどうやら間違っている可能性が高そうです。何にしても、脳に関する研究は近年急速に進化しており、その構造の複雑さやその働きの複雑さも判明してから数年しかたっておらずまだまだ研究途上です。
よく、「21世紀は脳の時代」と言われているようですが、これは、今世紀に脳に関する研究が飛躍的に進歩し、その仕組みや構造が判明するのではないかということからきているようです。
残念ながら、今くらい医療研究が進んでいても、脳に関することに限ってはまだまだわからないことだらけです。脳のことがわかるようになれば、その分脳の病気などの治療に役立つことになりますから、研究を重ね、脳の詳細について早く判明するようになればいいですね。