スープを作るとき、重要な材料になるのが出汁(だし)です。出汁をとる材料・だしのとり方などの要素によって、出汁の味は大きく違ってきます。
だしが無ければ美味しいスープを作れないと言っても過言ではないのです。
工業的にうま味成分を合成して作ったうま味調味料は、基本的にグルタミン酸・イノシン酸などのうま味成分のみを配合しています。
しかし、天然だしの場合はうま味成分を抽出した素材がもっているミネラルやビタミンなども一緒に抽出されるので、その美味しさや栄養分という面においてうまみ調味料を遥かに上回っているのです。
それにうま味調味料の場合、「チャイニーズレストラン・シンドローム」と呼ばれる現象があることが知られています。
うま味調味料を多量に使った料理を食べた後、舌に痺れのような感覚が残る現象です。味というものは、つまるところ舌などの味覚神経への刺激なので、調味料が多すぎると神経に味と言う刺激が残り続けることになるのです。
天然出汁の場合、うま味調味料よりもうま味は強くないもののだしの素材の風味などがあるためうま味以上の美味しさを作り出すことが出来るのです。
ラーメン業界において、あるムーブメントが起こっています。それが『無化調』です。
無化調とは「化学調味料(うま味調味料)を使って無い」という意味で、昨今のスローフードブームと連動する形で日本全国に浸透していきました。無化調ラーメンに使用される天然だしの材料は、うま味成分の強いサンマの煮干しや高級料亭で使われるレベルの高い利尻昆布など、うま味調味料に匹敵するうま味を秘めた素材が使われています。
ただ、こうした材料を使うことでコストが高騰し一杯当たりの値段に跳ね返ってくるのが無化調ラーメンの難点であるともいえます。
昨今、話題となっているのが「食育」です。『毎日の食事の中で食品に対する理解を深め、正しく健康的な食生活を実践するための教育』という意味ですが、天然だしを使うということは食育に通じます。
簡単なうま味調味料やインスタント食品などに頼った食事では、本当の味の知識や経験が身につきません。それに、食品添加物などで身体を壊す可能性も出てきます。
天然だしを使うということは、健康的な食事の作り方や取り方を知ることが出来る格好の教材でもあるということなのです。
一口に「天然だし」と言っても、素材の種類や使う素材によって大きく違ってきます。
まず、鶏がら・豚骨・鰹節などの動物性の天然だしや、昆布・しいたけなどの植物性の天然だしに大きく二分することが出来ます。
動物性の天然だしからはイノシン酸が析出され、コクのある味わいになります。植物性の天然だしからはグルタミン酸・グアニル酸が析出され、さっぱりとした繊細な味わいになります。
こういった天然だしごとの味や風味の違いを料理ごとに使い分けていくのがポイントになるのです。
天然だしの素材
昆布
日本料理に欠かせない天然だしの素材の一つです。
グルタミン酸を豊富に含み、あっさりした味わいながら深いうま味を秘めた海藻です。
鰹節
日本料理に使われる天然だしの一つです。
イノシン酸を豊富に含み、昆布と合わせて取った出汁を「一番だし」と呼び、繊細な日本料理の味の骨格として使われています。
鶏がら
ラーメンをはじめとする中華料理などに使われる天然だしの素材です。
あっさりした味わいで、しつこさが無いので女性にも人気が高い天然だしです。
豚骨
九州地方のラーメンに良く使われる天然だしです。
脂肪分が多く、コクと匂いが強いので女性には敬遠されがちですが、コラーゲンを豊富に含んでいます。
牛骨
フランス料理や関西地方の料理で盛んに使われる天然だしです。
BSE問題で人気が低迷していますが、上品なコクと味わいが特徴です。
煮干
カタクチイワシなどの小さい魚を天日干しなどで乾燥させた、天然だしの素材です。
丸ごと食べることの出来る食材でもあり、庶民の味として長く親しまれています。
乾物
干ししいたけや干し貝柱などが含まれます。
乾物にすると水分が抜けて長期保存しやすくなる上に、アミノ酸が熟成して美味しさが増すのです。中華料理では、様々な食材を乾物にして使う手法によって生の時とは違う美味しさを味わっているのです。