今まで2つ、現代の魔球について話してみました。そこで今回は過去の魔球として「不正球」をとりあげてみようと思います。不正球・・・もはや名前だけでズルしてる!と言わんばかりですね。しかし、過去にはルール上認められていたものもあります。もちろん、今は全部禁止ですけれど。でも、仲間内で気軽に野球を楽しんでいるときはちょっと試してみるのも面白いかもしれませんね。役には立たないですけどコラムとして楽しんでみてください。
簡単に言うと、ボール側に細工して投げる変化球のことです。昔子供のおもちゃで、説明書どおりに投げれば、だれでも変化球が投げられる! というのがありましたね。逆に言うとまっすぐは投げられないんですけど。そこまであからさまでなくても、ボールにちょっとした細工をするだけで、意外なくらいボールは曲がるものなのです。ボールのちょっとした出っ張り、あのシーム(縫い目)でさえ、あるのとないのではまったく変わってきます。
では、先人たちの生み出した偉大な? 変化球である、不正球の数々を紹介してみましょう。
これはホントの不正球です。どんなものかというと、ボールにキズをつけたり、ボールの表面をざらざらに削ったりするものです。傷つける手段も、やすりやツメなどさまざまなものがあったようです。こうして傷つけたボールは、指に引っかかりやすくなって、より強い回転をかけることができます。その上空気抵抗も増大するので、その変化度は驚くほどだったと言います。現在はボールに傷ついているようなことがあればすぐ審判が変えてしまいます。審判が気づかなくても、ファウルボール打たれるだけでやっぱりボールを変えられてしまうので、少なくても公式野球ではまず無理と言うことになりますね。のどかな草野球ならまだ通じるかもしれませんが、仲間内で卑怯なピッチングしても楽しくないと思います。(仲間内で豪快な変化球を見せて、驚かせるんなら楽しいかもしれません)
これはツバをボールに塗りたくって投げる変化球です。もしくは松ヤニなどの粘液を付ける場合もこう呼ばれます。変化球を投げるには基本的にボールに回転を与えるか、回転をさせないかで投げます。そこでこうした液体を塗りこむことによってすべりをよくして、回転を減らすのがスピットボールの狙いです。実は、アメリカでプロ野球が出来たのは1971年のことなのですが、1920年までスピットボールの使用は黙認されていました。つまり、50年近くも変化球として認められていたんですね。ちなみに禁止された理由は「卑怯だから」ではなく、「汚いから」だったそうです。納得。
マッドは泥のことですから、どんな変化球か容易に想像できるかと思います。想像通り、ボールに泥をつけて投げるんですね。重心がずれることと、滑りにくくなるので回転をかけやすくなるわけです。とはいっても野球は屋外、しかも少々の雨天でも決行することが多いですから、「今日はやけに変化球のキレがいいなー?」なんて考えながら、偶然マッドボールを投げたことがある人もいたかもしれませんね。
同じボールを使いすぎれば、すり減ってピカピカ、表面の凹凸などがなくなることもあるでしょう。こういったボールを投げると、空気抵抗次第で予想外の変化をすることがあるので、シャインボールという不正球になります。とはいっても、別にピッチャーのせいではないですし、物が足りなかった時代においては仕方がない話だったと思います。今でも禁止されているわけではないのですが、毎回新品のボールが出るような今の時代では、ありえない変化球ともいえますね。
スピットボールを始めとする不正球は、1920年に正式に禁止されるまで、黙認されていました。そして、こうした不正球による変化球を操るピッチャーのことをまとめてスピッターと呼んでいました。では、このスピッター第一号はだれだったのでしょうか? まあ、シャインボールやマッドボールは本人にその気がなくても偶然投げてしまうこともあったでしょうから、ここではスピットボールについて紹介しましょう。初めてスピットボールを投げたとされるその投手とは、1900年初期に活躍したエルマー・ストリックレットで、彼が大リーグにこうしたスピットボールを広めたとされています。そのせいか彼には「エルマー"スピットボール"ストリックレット」という、ありがたいんだかどうなんだかわからない二つ名が与えられています。