ライフルってありますね。あの長い銃身の中には、螺旋状の溝が刻まれています。発射すると弾はこの溝のおかげで横回転して、まるでドリルのような回転をするようになります。なぜわざわざそんなものを付けるかというと、その回転が最も空気抵抗を受けにくく、まっすぐ、そして長距離進むからです。このライフル弾と同じ回転をするのがジャイロボール。現代の魔球と呼ばれるものです。
回転の仕方がほかの変化球とまったく違う回転をします。それが魔球とか言われる理由でしょうか。さて、この回転ちょっと説明が難しいので、コマを使って説明してみましょう。バッターから見て、カーブは普通にコマが回っている状態。ストレートは縦回転なので、コマが真横に寝た状態といえるでしょう。さて、問題のジャイロボール。これはコマの軸がバッター側に向いている回転です。回転軸がバッター(投球方向に)を向いており、ライフルの銃弾と同じ回転になるわけです。
シームとはボールの縫い目のことです。さて、ジャイロボールは回転軸をバッターに見せているわけですから、バッター側からすればずっと同じ回転軸が見えているわけですね。ということは、空気に対しても一定の面しか当たっていないことになるわけです。ここで問題になるのがシーム。あんな縫い目一つでも空気抵抗としてはかなりのもの。この縫い目がボールに与える影響は大きく、縫い目のどの面が向かっているかによってジャイロボールはツーシームジャイロとフォーシームジャイロに分かれます。そして、この二つのジャイロボールはまったく正反対と言ってもいい動きをするのです。
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ボールにはシームがあるわけですが、打者側からみて見える面の縫い目が非対称の形の場合、空気抵抗が激しく増えます。
そのため、初速が速いので慌ててバットを出そうとしたら、意外とボールがこないので、タイミングが外れると言う効果があります。しかも投げた瞬間は速く、バッター側で急激な減速(と、それによるボールの落下)を起こすために、打ちにくい球といわれています。
シームが対象の面を向けたジャイロボールです。これが怖いところは、空気抵抗が少ないと言うことです。ということは、初速と終速の差が極端に少ないと言うことです。伸びのあるストレートというものはこの差が少ないものを指しますが、フォーシームジャイロは当然ながらこの伸びのあるストレートよりもさらに伸びるわけですね。しかも、ストレートはバックスピンがかかっていますので重力に逆らってまっすぐ進みますが、フォーシームジャイロはそれがないので、ナチュラルに落ちていきます。いわば超高速フォークとでも言うべきものでしょうか。
さて、以上のようなジャイロボールの説明は完全に回転軸が打者側に向いていた場合の説明です。しかし、見事にまっすぐ回転軸が打者を指すジャイロボールはめったになく、大抵は回転軸が多少ずれてくることになります。その結果、投げた投手もどのような変化を起こすかつかみにくい変わった変化を起こすことになるのです。どんな変化をするかわからない・・・これがジャイロボールの本当のすごさなのかもしれませんね。現代の魔球・・・という呼び名にふさわしいのかもしれません。
このジャイロボール、だれが初めて投げたのかは定かではありません。何しろカーブやシュートのように、回転系の変化がかからないわけですから、バッター側としては「なんかへんだな?」といった感じにしかわからなかったのだろうと思います。高速カメラなどが普及した現代においてやっと認識されたのだ、ということで、実は昔からジャイロボールだとは考えずに投げていたピッチャーがいたのではないかと思われるからです。ただ、実際にこういう球があると存在を証明して見せた人ははっきりしていて、スポーツ化学者手塚一志という人が最初だったとされています。
良いストレートというのはしっかりとバックスピンがかかっているのが良いストレートだ、というのが今までの野球界の常識です。しかし、ジャイロボールに関して言えばバックスピンがかかってしまってはジャイロボールにならないのです。
そのため、ジャイロボールを投げたいのであれば、他の変化球とは違い、フォームそのものから改造する必要があります。習得には大変な苦労を要求されますが、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
フォームや握り方など詳しい事はジャイロボールの投げ方のページで紹介します。
今期からメジャーでの活躍が期待される松坂投手ですが、この松坂選手の投げる縦スライダーは、ジャイロボールなのではないか? と言われています。回転軸が完全に打者を向いていないものの、回転方向がジャイロに近いとされています。本人はジャイロを投げているつもりはないと否定しているようですが、ナチュラルなジャイロボーラーなのかもしれませんね。前述の手塚一志氏は、条件つきながらジャイロボールの仲間と認める発言をしています。