ここ、変化球スピリッツでも何回か「シーム」という言葉を使ってきたので、シーム=ボールの縫い目と言うことはご存知でしょう。硬式野球のボールにある、108つの縫い目のことですね。あっても無くても大差ないような気がしますが、これが意外なくらい大事です。あとで登場するジャイロボールの時にもシームの話が出ますので、一ページ使ってシームについて考えてみましょう。
今の技術なら、シームなんか無くってもまるでピンポン球のようにツルツルのボールが作れそうな気がしませんか? 多分、作れないことないと思います。強力な接着剤とかで張り合わせてもいいし。しかし、もしもシームがなくなると困るのはピッチャー側のほうなんです。なぜなら、シームには変化球を投球する時に2つ大事な役割があるからです。ここではその役割を考えましょう。
あんなちっぽけな出っ張りでありながら、シームが受ける空気抵抗は結構高いものです。変化球を投げるときには、このシームの空気抵抗がものすごく大事になります。例えばカーブを投げたとしましょう。ものすごい回転を加えたとしてもシームがないツルツルボールと、シームが空気に引っかかってくれるのとでは大きく違ってきます。大抵の変化球は変化が大きい方がいいわけですから、大事なポイントですね。
変化球を投げる際に必要なのが回転。回転させなければフォークなどの落ちる系変化球しか投げられません。横に移動する変化球にはなんとしても回転を加えなければ曲がってくれません。そのためボールをリリースするときは、なんとしても指でホールドして、より強い回転を加えたいものです。そのため、ただの面を握るより、シームに指をかけた握り方の方が、踏ん張りやすくて回転をかけられると言うわけです。変化球の投げ方の基本ですね。
ナックルを除けば、ボールには多かれ少なかれ回転がかかっています。その回転を良く見ると、縫い目の対称面が回転している場合と非対称面が回転している場合があります。文字で説明していても良くわからないんで図示してみると、この図の場合は縦に回転していれば、対称面の回転、横に回転していれば非対称面の回転になります。間違いやすいのですが、あくまで投球時にボールが一回転する間にシームが何回現れるかによって、ツーシームとフォーシームに分けられるのです。変化球を考える上で外せないポイントなので、一応頭に入れて置いてください。以下にちょっとした例を挙げてみます。
フォーシームの回転でストレートを投げたとします。こうすると、回転最中にシームが4回まんべんなく出てきますね? そうすることによって空気抵抗にバラつきがなく、いわゆるキレのよい速球になります。その証拠に、ほとんどの野球解説書ではこの投げ方を推奨していると思います。では、ツーシームで投げてみるとどうなるでしょう。シームの出現率は半分になります。さらに余計な空気抵抗を受けるので、フォーシームより球速も落ちます。しかし、そのばらついた空気抵抗のおかげで、ストレートに微妙な変化がつきます。この微妙にずれるストレートは、新しい変化球といえるかもしれません。いまではメジャーリーグでも人気です。日本に輸入されてくる可能性も高いと言われています。
ジャイロボールは後で詳しく説明しますが、打者から見ると一定のシームしか見えない投げ方です。実際には激しく回転しているのですが、その回転方向が縦でも横でもなく、螺旋回転をしているので、打者側からすると一定面しか見えていないということになります。このジャイロ回転をしていると、空気抵抗の効率が良くなるので、速球を投げられます。ところ打者側から見るシームが非対称だと、とたんに空気抵抗が増えて、急速は遅くなり、さらに落ちる変化を見せてくれます。つまり、あんな小さなシームによってそれだけの変化が見られるということです。投げ方、握り方は同じでも、シームの向きだけでこれだけ変わってくるのですね。
ものの本によると、シームがボールの面積に占める割合は3%ほどなのだとか。しかし、その3%と言うのは決してあなどれないものです。変化球を投げようと思うなら、いつも頭に入れておきたいものですね。変化球を投げるときには、握り方をしっかりするのは当たり前として、回転方向・変化球に合わせたシームの握り方を考えると、随分変わってくるものです。